未見時の印象としては、静かでTHE邦画、という感じの真面目な映画だと思っていたんですが、まあ真面目は真面目だったんですけども、ラブストーリーありの笑いどころありの、静かながらもドラマティックで、かなり「エンタメ!」という感じでした。
辞書編集ってそういう手順を踏むんだ……めっちゃ地道だ……コツコツだ……一大事業だ……それをこの少人数で!? みたいな感じだったんですが、このお話、始まりが1995年なんですね。そこから15年かけて辞書が完成するわけです。
40代の私の若かりし多感な時期とドンピシャに重なりまして。PHSとかチョベリグチョベリバ、集められる「新しい言葉」にいちいちノスタルジーを爆発させていました。笑。
1995年時点では契約社員のおばさまだけが使っていたゴツいパソコンも、時代が進むにつれてスタイリッシュになりそれぞれのデスクに配置され。ああ、こういう時代だったなあと懐かしく思いました。
私の大学時代の英語の授業の先生で、ご自身で英和辞書を発行された方がいたんですが、そのおじいちゃん先生のことも思い出したり。「辞書を発行したら博士号ものと言われたけど学位に興味はない」みたいなことをおっしゃっていたんですが、たとえば「ファンデーション」の意味を調べにデパートのコスメカウンターに行ったりしていた、みたいな話を聞いたなあ。
ラブストーリー要素も、主人公一本じゃなかったのがよかったですね。ここに集約されてしまうと「ラブストーリーもの」という印象が強くなってしまいそうです。しかしこういうタイプの男の人が恋心を伝えるには口頭よりは手紙の方がいいというのはだいたい同意したい気持ちなんですが、なぜ筆で書いた。ラブストーリー要素はコメディエッセンスの意味があったかもしれないな、と今気づきました。結局主人公くんは筆書きの恋文を想い人に渡しちゃうわけですが、ヒロインちゃんも読みたいけど読めない!どうしよう!の結果、板前修業をしているお店の大将に読んでもらうというのがね……大将も「いいのか?」と訊いたらしいんですけど、ヒロインちゃんと大将のその読んでるときのいたたまれなさが想像できてめっちゃ笑ってしまいました。
お仕事ものの要素をベースに、人間模様が上手くちりばめられていて、全体のストーリーも静かながらドラマティックでした。責任者の先生……ああ……やっぱりってのもありつつも。
そして出版パーティで、言葉集めの用紙をとりだすところと「明日から改定作業」の言葉に、生きた辞書をつくるというのは生きていくことなんだなと思ったりなんだりしました。
あと、映画でいわゆる主題歌というか、歌詞を乗せた曲を出さなかったのがとてもよかったなとおもいました。このお話は「言葉」というものがもちろんとても重要なのですが、口に出しやすい言葉(≒歌)って意味が変質しやすくて、うっかり使ってしまっていたら映画がチープになっていただろうなと。ピアノベースの劇伴も心地よかったです。
一方でちょっと気になったのがヒロインちゃんのケア労働が多すぎない?というところで。まあ時代としてもそういうものなのかもしれないんですが、主人公くんが静かな変人ではありますがはたから見ていれば「仕事人間」なので、ちょっとそのあたりもやもやがありはしました。まあヒロインちゃんがラストで「(主人公くんは)おもしろい」って言うのでそこで救済かなあという気もしますが。
最近、言葉の精度、というものについて考えることが増えていたので、いいタイミングで観るきっかけをくれたコウジさんに感謝! 全肯定ではないですが、そんな作品に出会えること自体稀なので、面白い映画が観られてよかったです。満足!
