櫻切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿

「佐伯は梅がすきね」
剪定をしているとお嬢様がおっしゃった。
はい、私は美しいものがより美しくなることに喜びを感じますので。
まだ幼いお嬢様には難しいかもしれないと思いつつ、故事をご説明する。
お嬢様は興味深そうに頷かれる。
「銀の食器をみがくのもおなじ?」
はい、とお答えすると零れるような笑顔。

「佐伯、どう思う?」
台紙の写真。釣書には申し分ない文言が並ぶ。お嬢様の顔は浮かない。
良い方だと思います。
佐伯が言うなら、と見合いの日取りが決まる。

「佐伯、綺麗かしら」
はしたないですよ、と諌めながらつい頬が緩んでしまう。
白無垢。白粉に紅。
少しじゃじゃ馬の、けれどとても美しい櫻子お嬢様。
どうか、どうかお幸せに。