谷津矢車先生に会いに行った

本日、紀伊国屋書店久留米店で合同サイン会というものがございまして。


谷津先生に会いに行ってきましたの日記です。

道順としましては「家→天神駅→西鉄久留米駅→ゆめタウン→西鉄久留米駅→天神駅→家」という感じの、ちょっとした遠出です。

てんじんえーきのかいさつぐーちで♪

いや、谷津先生はスピッツフリークなので。

西鉄福岡天神駅から西鉄久留米駅までは特急で35分くらいです。旅のお供のアクスタセイと、ミルクのカンロ飴。

このミルクのカンロ飴、とてもとても美味しいのでぜひどうぞ。カンロ飴のお醤油味にミルク風味が重なって、あまじょっぱのバタースカッチみたいな味です。

これはもうすぐ久留米ってところかな。

西鉄久留米駅でバスに乗り換え、ゆめタウン久留米店へ。紀伊国屋書店が入ってるんです。着いたのは13時半過ぎ。とりあえずお取り置きしてもらっていた本を購入して店内で時間つぶしましょうかねーと思っていたのですが、握手会整理券についてきた注意書きをみると14時から並べると。なるほど。ではご飯をささっと済ませて(タバコも済ませて)ならびましょうかねー、と。

というわけでフードコートのラーメン屋さん。息吹とかいうお店だったかな。こってり。ガム持っててよかった。

14時少し過ぎに列に並び始めて、オペレーションの心配をしつつ待つ。いやだって16人の先生で一斉にサイン会ですよ。書店員さんも多数サイン会の準備にかかってて、警備員さんも頻繁に見かけました。ガンバレーガンバレー。

先生がたがお見えになって拍手でお出迎え! その少し前にウォークマンを外しておきました。うう、ざわざわした雑踏はやっぱり苦手ですね……どんどん体力ゲージが減ってゆく……。

そして! ついに! 谷津先生初めまして! やっとお会いできましたね!

まるでストーカーじゃないですかいかんいかん。谷津先生お着物じゃなかったー。ラーメン話ばかり振ってしまってすみません。てんぱってたんよ……。購入した(サインしてもらった)のはすでに持っていた『廉太郎ノオト』でしたが、家にある分は布教用と称してさとう家実家にあげる予定です。サイン本は私が楽しむのー。谷津zine、豆本じゃなくてコピー本なんじゃ? と思っていたんですけど豆本サイズでした!

サインいただいたらちょっと休憩したかったんですが、天神までとりあえず戻ることにしました。西鉄久留米駅から天神駅までも特急で。帰りは座れなかったよー。

会いたい人には会えるときに会っておけ、って最近よく思うので、お会いできてよかったです。谷津先生イケメンですしお寿司。

『廉太郎ノオト』拝読しました

セイがいるのは通常運転なのでお気になさらず。

谷津矢車『廉太郎ノオト』を拝読いたしました。ので感想に見せかけた思うことつらつら。

谷津先生が「今の谷津矢車の遺書です」とおっしゃっていたので「それは読まねば!」となって手に取りましたのです。端的に言って「すごいものを読んだ」、というのが率直な感想です。

滝廉太郎のことを描いた本作、私の滝に対する前知識はこんな感じ。

・ 日本を代表する作曲家
・ 大分出身(間違い、生まれは東京で育ちが大分の竹田)
・ 「荒城の月」は大分をイメージした曲
・ 若くして亡くなった

主に小学校で習った知識のまま。ピアノは小学校上がる前から中3まで習ってました。

この本、歴史小説家として知られている谷津先生の著作ですが、歴史小説の色合いは薄く、現代小説でないと難しそう、という方にも力いっぱいおすすめできる青春小説です。

もともと谷津先生の文体は歴史小説でも難しい言い回しが少なくて、逆に言えば生粋の歴史小説好きの方からは軽いって言われてしまいそうな文体なのですが、それが明治を舞台にしたことでより現代小説の色味が濃くなり、しかも私は一応ピアノを習っていた過去もあるのでするすると頭に情景が浮かびました。大事ですよね、頭にイメージしやすいか否か。

作曲家として知られる滝廉太郎ですが、本書ではピアニストとして描かれています。作品内でも言及されていますが、演奏は忘れ去られても作曲は譜面として後世に残るのでそれで名が残りやすいという点はあるのでしょうね。

大分、竹田の地でバイオリンを手にした廉太郎。家老の家系の父は芸事に進もうとする廉太郎を阻みます。親子の対峙はいつの世も変わらないものなのでしょう。

東京音楽大学の予科で出会う友人、衝撃を与えるバイオリン演奏、衝撃を与えるピアノ演奏、それに圧倒される廉太郎。ここはね、一度でも一つのことを究めようと志したことがある人ならぞくっときます。ただただ圧倒され、冷静になると同じ道具を同じように使っているはずなのにという葛藤。けれどここに至るんだという決意。アツいです。

ライバル幸田幸との関係もすごくいいです。バイオリンの天才、幸。激情の演奏家の孤独も私にはびびびときました。ライバルとはいえ幸はバイオリン、廉太郎はピアノ。当然協奏ができるわけです。

だいぶ前にツイッターで流れてきてああそうだよねえと思った話があるんです。

デートに行ったカップル。生演奏のお店で、彼氏の方が飛び込み演奏。女性演者(たしか元カノだったかな)とのセッションでカップルの彼女の方が「だってセックスよりよっぽど親密!」

細部曖昧ですけどだいたいこんな話。ほんとね、セッションって濃密な会話なわけですよ。作中、廉太郎と幸の協奏はそれぞれの現在地を示すマイルストーンとして描かれます。廉太郎は幸の弱いところを見抜き、幸もまた廉太郎の弱いところを見抜く。バトルの中でお互いを知る少年漫画みたいですね! アツい!

旋律、右手、メロディが弱いと指摘された廉太郎は、あくまでピアノのために作曲仕事をこなしてゆきます。お正月も滝廉太郎作曲だったんですね! 知らなかった!

官費留学で西洋音楽の本場へ足を踏み入れた廉太郎。ああこれからこの人には栄華なる人生が……という歓喜の最高潮からの、……。まるで小説のようです。(小説ですが史実をもとにしてるのよね)

ここで滝廉太郎の遺作『憾』の動画を貼ってみたりする。

この曲は、この本を読んで初めて聴いてみたんですが、短いのに展開が目まぐるしく変わる、はっとさせるような曲ですね。日本的な曲調をベースとしながらも、お行儀のよいクラシックな変化、そして最後の最低音。「憾」というのは「うらみ」と読みますが「残念に思う気持ち」のことなのだそうです。

そして最終章。作中でさらっと出てきた曲がこんなに印象的に使われるなんて! 谷津先生上手いな!!(プロです)

これはね、布教したいタイプの本ですね。布教して、語り合いたい本。そのぐらい私には刺さりました。ちなみに妹に貸す予定にしてます。私は中3でピアノやめちゃったんですけど、妹は高3までピアノ習ってて音楽も学べる大学への進学を考えていた時期もあるので、きっと好いてくれると思います。

あと、谷津先生の「遺書」という言葉。

超短編作家・氷砂糖としての最高傑作『アイノマジナイ』は当時の私の全力を尽くしたんですね。それこそ「遺書」を書くつもりで。結果としてよいものができたし、私はそのあと自分の衰えも知るわけです。谷津先生はこれからもっともっとBIGになっていくしならなくちゃいけないと思います。その足がかりとする、ターニングポイントとする1作という意思の表れだったのかな、なんて思いました。

ところで完全に関係ない話なんですが、先日Kindle版『fillies』にレビュー(しかも好意的)が付いていたのに気が付いたので、できれば今年中に『アイノマジナイ』をKindle化したいと考えています。考えてはいます。

谷津矢車『おもちゃ絵芳藤』はいいぞ

歴史作家の谷津矢車先生とはツイッターでキャッキャウフフしてる仲なのですが、
なんでこんな関係になったのかは覚えていない……。

さておき。

谷津先生の新刊『おもちゃ絵芳藤』を読了いたしました。
クリエイターを殺す本」と谷津先生はおっしゃられていましたし、
実際、読んでいてザクザク切りつけられはしたのですが、
読み終えたら良質なカタルシスが。

と、まあハードル上げ続けてもしょーがないとはおもうけれど
谷津先生なら笑って許してくれる。信じる。信じるって大事。

主人公の芳藤は幕末の絵師。
浮世絵師、歌川国芳の弟子です。
国芳が亡くなったところからお話は始まります。

私は中学から社会科捨ててた(担当教師が嫌いだった)のと、
未履修問題があった高校卒なので日本史の知識がほとんどないです。

なので、歴史小説ってどうも苦手意識があったのです。
というか今もあるんだけど、谷津先生の作品では、そこまでメジャーじゃない人物が主人公に据えられる事が多くて、前知識があんまりいらないので助かっています。
文体も軽妙だし。
(ただ、文体が軽妙なのは歴史小説好きな人から見るとマイナスポイントなのかもしれない)

というわけで、浮世絵の知識もほとんどない私ですが、
いやいや、楽しめました。

作中、藤芳は、絵師としての経歴は長いものの当たり作に恵まれず、
駆け出しの絵師がやる仕事であるところの「おもちゃ絵」をひたすら描いています。
弟弟子たちはどんどんと名を上げていくのに、
取り残されている、
という、まずここがクリエイターに切りつけポイント。
このポイントにビビビと来た人はぜひ読んでください。

そして、舞台は幕末から明治への過渡期。
変わっていく世の中で、
合せて変わっていく人々、変わることを拒む人々、変わることを強いられる人々。
ここは現代社会の写し鏡でしょう。
このポイントにビビビと来た人はぜひ読んでください。

あと、冒頭の国芳始め、いろんな原因で人は結構死にます。
人死にがどうしても苦手な方は敬遠してください。
それだと歴史小説読めないだろうけど。

不器用な生き方をした芳藤、その周りの人々。
いや、正直、谷津矢車作品では一番好きですね。

ちなみに「おもちゃ絵」というのは子供向けの絵のことで、
おもちゃとして遊ぶための絵だったり、戯画だったりのことらしいです(?)
巧く説明できている気がしない。

芳藤の描いた絵に関してはこんなツイートを見つけたので貼っておきます。

 

が結構なキーポイントかもしれない。
師匠国芳の画塾にはたくさんの猫がいたそうです。

そうそう、この『おもちゃ絵芳藤』、
カバー装丁の擬猫化絵師のイラストもいいのですが、
カバーを外した装丁も赤地に金の猫絵で、渋カワです。
結構ポップかもしれない。
(なお、カバーを外したのは書店で紙カバーをかけてもらうのを忘れたから)

いい本でした。
折を見て再読したいです。